お役立ちコラム

【終活に拍手】第七回 長引く遺産分割協議

2021.03.08


『死は、全員が初体験。だから準備の仕方を知らない。しかし、しっかりとした準備をした人は家族から拍手喝采を受けます。』
今日は『遺産分割協議』の話ですが、物語は前回からの続きという展開になっています。

「浩二、空を見てみろ。北から雲が上がってきている。荒れるぞ、気をつけろ。」
「了解!」
兄の健一の五m前を慎重に足元を確かめながら浩二は北アルプスの早月尾根を進んでいた。何度も歩いた道とはいえ2千500m近い稜線に季節外れの雪が降って歩き慣れた道が隠れていたので普段以上に気をつかう。おまけに風まででてきた。
「兄貴、そういえば親父が死んだって、山口県の行政書士から手紙が来てたけど読んだ?」
「ああ、読んだよ。俺達二人も相続人になるから、遺産分割協議とかいう話合いをして親父の財産を分ける必要があるらしいな。松山に来るから会いたいって書いてあったな。」
「でもさ、兄貴、親父の顔を少しくらい覚えてる?」
「覚えてる訳ないだろ。俺がまだ幼稚園の時にいなくなったんだぞ。」
「そうだよなぁ。」「今さら相続って言われてもピンとこないよなあ。」
浩二は後ろの兄、健一と話しつつ強まる風に少しあおられ、一歩左に足を開いた。が、その瞬間、自分の体が宙に浮かんだことを感じた。後ろにいた健一は、何かを感じて顔をあげた瞬間、浩二の姿が消えたことに気がついた。
「浩二ーーーー!」
健一は浩二の妻、博子とまだ小学生の娘、早紀と病院の霊安室にいた。浩二は雪(せ)庇(っぴ)を踏み抜き200m滑落、即死だった。
「お義兄さん、私達、これから、どうしたらいいのでしょう。」
健一は、自分が一緒にいながら弟を死なせた口惜しさと博子や早紀のこれからの事を考えると言葉がでなかった。
3日後、浩二の葬儀を終え納骨や仏壇をどうすべきかで悩んでいた健一の所に、死んだ父親の相続手続きをしている山口県の行政書士からまた連絡が来ていた。
「よし!行政書士と会って博子や早紀の分まで、遺産をぶんどってやろう。」健一は思いを固めていた。

「相続人である松山市のお兄さんの健一様より返事がありまして、先月に弟の浩二さんが山岳事故で亡くなったそうです。」
健一・浩二の兄弟と母親が違う秀樹と晴美の兄弟、時間がない秀樹が妹の晴美に文句をつけたため、晴美が依頼した行政書士からの報告を秀樹はイライラしながら聞いていた。
「先生、いつになったら、話が進むんですか?もう6ケ月もたってますよ。」
「それで、その、向こうの弟さんが登山の事故で亡くなったということは、相続人が4人から3人になったので、俺たちの取り分が増えるってことだよね?」
「いえ、取り分は変わらないのです。」
「はぁ、どういうこと?」
「亡くなった弟の浩二さんには奥様と小学生の娘さんがおられるので、浩二さんの相続分はそのお二人が受けとられることになります。」
「それと、小学生の娘さんは未成年ですので、単独で法律行為ができません。ですから、今後、特別代理人が選任されることになるかと思います。」
「じゃぁ、俺たちは一体いつになったら親父の遺産を受け取れるんだよ?」
「相続人の全員が納得して書類に実印を押してもらえるまでですから、私には何とも申し上げようが・・・」
 遺言書がない相続が発生した場合、遺産を受取る手続を銀行や役所でするためには、相続人全員が署名、実印を押した『遺産分割協議書』が必要です。
 また相続が発生した後、不幸にして相続人の方が亡くなられたり、認知症になられたり、相続人が未成年だったりすると、スピードのある話し合いを進めることが難しくなります。
ところが、遺言書があれば、『遺産分割協議書』がいらないので、すぐに遺産の名義変更をすることができるのです。
『遺言書を作る』ということは、大切なご家族を守るあなたの最後の仕事かもしれません。


執筆者:田村滋規


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