お役立ちコラム

【終活に拍手】第六回 親父の再婚

2021.02.17



『死は、全員が初体験。だから準備の仕方を知らない。しかし、しっかりとした準備をした人は家族から拍手喝采を受けます。』
今日は『相続人』の話をします。
「晴美、市役所で親父の戸籍もらったか?」
「行ったんだけど、お父さんって昔に本籍地が変わってるから、周南市役所では全部の戸籍はとれないんだって。」
「どういう意味だ?」
「本籍地が変わっている場合は、前の本籍地の役所に戸籍を請求しないといけないらしいの。」
「前ってどこだ?」
「愛媛県の松山市なんだって。」
「はぁ? そんなこと聞いたことないぞぉ。」
「で、お前、どうすんだよ?」
「私もね、子供をお義母さんに預けてるので、早く大阪に戻らないといけないのよ。」
「いつまでも戸籍集めばかりやってられないわ。」
「兄さん、やってよ」
「だめだ、だめだ。俺は明日東京に戻らないといけないし、その翌週は海外出張だ。」
「無理だな。」
「だって、父さんの銀行口座の解約に戸籍が要るんだって言ったの、兄さんじゃない。」
「なんで私がやらなきゃいけないのよ。好き勝手言って」
「いいわ、もう、面倒くさいから相続専門の行政書士の先生に頼むわ」

田植えが終わった田んぼが縁側の向こうに見え、今日は風もなく鏡のような水面がきらきらしている。
梅雨の中休みなのか、突然の猛暑で気温が30度を超えた。四九日の法要で帰省してきた二人だが、またいつものように口喧嘩をして別れた。
一か月後。戸籍調査を依頼した行政書士からの報告を聞いている秀樹と晴美。
「お父様ですが、愛媛県松山市にいらした時にご結婚されてたんですね。」
「えーー、私そんなことお父さんからもお母さんからも聞いたことないわよ。」
「じゃ、俺たちの親父は再婚だったってこと?」
「なんかの間違いじゃない?」
「いえ、この戸籍をご覧ください。」
「ここに松本明子ト婚姻届出 昭和拾八年六月弐拾五日受附㊞とあります。」
「それと、少し言いにくいことなんですが・・・」
「何ですか?」
「お父様と前の奥様との間には二人、息子さんがおられるようです。」
「それが何か?」
「つまり、前の奥様との間の息子さん達も相続人なので、亡くなったお父様の財産を受取る権利があるということです。」
「えぇー。お、親父の遺産の6千万円は俺達二人だけで分けられないのですか?」
「はい、前の奥様の息子さんお二人を含め四人での分割になります。」
「ど、どういう風に分けることになるんですか?」
「それは、皆様の話し合い次第ですが、仮に法定相続分で分ける場合は、4分の1ずつの1500万円になります。皆様同額です。」

相続手続きにおいて戸籍が必要な理由は、亡くなった方の遺産を相続するのは誰かということを明らかにするためです。
亡くなった方の過去の婚姻、養子縁組、認知等の履歴は現在の戸籍には記載されないので、出生の時まで遡った戸籍を一つ一つ入手し、その身分事項欄を注意して読み解いて確認する必要があるのです。
もし、養子縁組や認知による相続人を見落として遺産分割協議をし、相続手続きが完了したとしても、それは無効となり、改めて相続人全員で遺産分割協議をやり直さなければなりません。
ですから戸籍を読み、相続人を確定することに間違いは許されないのです。

執筆者:田村滋規



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